疼痛ゼロの日シンポジウムin高松:第2回難治性疼痛診療システム研究会のまとめ
テーマ~痛み難民を救う:わが国に適した慢性痛診療システムを求めて~ その6
平成26年10月19日
《講演④》
「痛み医療の将来」 大阪大学医学系研究科疼痛医学寄附講座教授 柴田政彦先生
医療サービスの向上 医療費の削減「まず魂より始めよ」
病院に行く理由の多くは、痛みを取るためであり、多くの病気では、原因が治ることで痛みもなくなる。しかし、原因がずっと治らない、または、原因が今の医学ではわからない「線維筋痛症」などの痛みの場合は、どうしていいのかわからず、医者も患者も困ってしまうということが起こる。
痛み対策は、医療の中で大切なはずだが、測れないので軽視されているのが現状。ヒポクラテスの時代は、痛みを治すのが医療だった。つまり痛みの治療は医療の原点だが、皮肉なことに、医学が進歩し各種検査が充実してくると、目に見える検査結果が重視され、目に見えない痛みは、軽視されるようになってきた。
1980年ころから、欧米では「痛み」に困っている患者は多く、社会的にも大きな負荷となっているという認識が広がり、その対策を進めてきた。なぜか、日本では軽視されたままである。しかし、痛みのために社会生活もままならない方が多くいるのは事実であり、その対策は進めなければならない。わが国でも対策は始まってはいるが、不十分である。まずは、医療者を教育し、痛みへの対応のできる医療者を育成することが必要である。
医学の進歩はめざましいと受け止められている。しかし、医学が進歩しても、解明されず治らない病気は残る。慢性痛もその一つ。慢性痛は、経済的損失も甚大だが、わが国では、そうした調査もなされていない。また、これまで難治性の慢性疼痛の患者さんは、適切に治療される手立てがなく、どこに行けばいいのかわからない状況であった。
難治性の慢性疼痛の患者さんに必要な医療は、従来の、医者が一方的に治す(施す)医療ではなく、患者を支え、患者と共に治していく医療であることが経験を通してわかってきた。そうした医療が、長い目で見て、病気の悪化を防ぎ、場合によってはよくなっていくことにつながる。痛みに対して正しく診療できる痛みに精通した医療者の育成が急務である。
重度な難治痛の患者さんは多くはない。しかし、高齢化社会を迎え、痛みがきっかけで動けなくなり寝たきりになるというような患者さんは多い。そういった意味でも、痛みのセルフケアが大切である。そのセルフケアをどう支えるかということも大きな問題である。
慢性痛の重大性を多くの人に知っていただいて、研究・教育・診療の三つを進めていくことが必要。
他の多くの国では、慢性痛対策のため、集学的なペインセンターが数多くできており、そこで研究・教育・診療が行われている。我が国で、このような体制が取れない原因の一つは、医療界の縦割り体質が強いからである。
私が理想とする慢性の痛み医療システムは、まずは一般医に行き、次にペインクリニックなどの痛み専門医に行き、それでも治らなければ、集学的なペインセンターに行くという形である。
このシンポジウムが、慢性痛に対する医療体制を確立していくための、きっかけとなることを願っている。
文責 ぐっどばいペイン事務局 若園
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